小羊の悲鳴は止まない

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歩み寄ることで見えてくる世界(「無垢なる証人」ネタバレ感想)

目次




初めに

こんにちは、レクと申します。

今回は現在、全国で2館しか上映されていない韓国映画『無垢なる証人』について語っていきたいと思います。

この映画はずっと楽しみにしていた映画で、1月はこの映画のために生きてきたと言っても過言ではないくらいです(笑)

ということで、この映画の良さを伝えたいという思いもあり、前半はネタバレ無しで他の映画とも絡めたお話を。
後半はこの映画のネタバレ感想を書いていきたいと思います。
興味がありましたら前半だけでもお読みいただけましたら幸いです。



作品概要


原題︰Innocent Witness
製作年︰2019年
製作国︰韓国
配給︰クロックワークス
上映時間︰129分


解説

「私の頭の中の消しゴム」「アシュラ」のチョン・ウソンが、正義と野心の間で揺れる弁護士を演じたヒューマンドラマ。「第5回ロッテシナリオ公募展」で大賞を受賞したシナリオを「戦場のメロディ」「優しい嘘」のイ・ハン監督のメガホンで映画化し、殺人容疑者の弁護士と、事件の目撃者で自閉症の少女の交流を描く。信念を貫くことをあきらめ、現実と妥協して俗物になることを決めた弁護士のスノは、出世のかかった殺人事件の弁護士に指定される。容疑者の無罪を立証するため、唯一の目撃者の少女ジウを証人として法廷に立たせようとするが、スノは自閉症で意思疎通も難しい。事件当日のことを聞き出すためジウと心を通わせことに努めるスノは、次第に彼女のことを理解するようになり……。ジウ役は「神と共に」2部作で注目された若手女優のキム・ヒャンギ。
無垢なる証人 : 作品情報 - 映画.comより引用




弁護士と検察側の証人

先ずはTwitterに上げた感想から。




主人公の弁護士スノを演じるのはチョン・ウソン。

代表作は解説にも書かれている通り『私の頭の中の消しゴム』『アシュラ』。


『私の頭の中の消しゴム』同様に『デイジー』や『私を忘れないで』など長身で格好いい容姿を活かして恋愛映画に数多く出演しています。
また、『愛のタリオ』では不倫をするクソ男を演じ、濃厚なラブシーンを演じている。

一方で、『アシュラ』や『監視者たち』、そしてNetflixオリジナル作品『鋼鉄の雨』などの硬派な役、悪役、野心家など幅広く演じ分ける万能で素晴らしい役者さんです。




自閉症の少女で今作のキーパーソンであるジウを演じるのはキム・ヒャンギ。

2019年日本公開の二部作映画『神と共に』にも出演しています。


子役から女優業に携わり、今作の監督イ・ハンの『優しい嘘』にも出演。


今作『無垢なる証人』を観れば分かっていただけると思いますが、彼女の演技はもっと評価されるべきです。
恥ずかしながら、『優しい嘘』は未鑑賞だったので、慌てて観ましたよ(笑)

突然自殺した妹の過去を紐解いていく物語です。
この映画でもキム・ヒャンギの演技が素晴らしいですね!
あと、イ・ハン監督と僕の相性も非常に良さそうです。





では、本題に入っていきます。

自閉症の少女ジウが夜中に向かいの家で起こった事件を目撃したことからこの物語は始まります。

家主の自殺を止めようとしたと主張する家政婦の弁護士がスノ。
その家政婦が家主を殺したと主張するのが検察側の証人であるジウ。

つまり、弁護士と検察側の証人は敵同士、主張する内容が対立関係、対置関係にあるんですよね。
はじめは家政婦の無罪を信じて事件の調書を取るためにジウに話しかけるスノでしたが、交流していくうちにジウの魅力に惹き込まれて事件の真相に疑問を持ち始めるというのがこの物語の大枠です。



今作『無垢なる証人』は事件の自他殺を争う法廷劇でありながら、弁護士と証人の交流を描いた人間ドラマとしても濃厚。
尚且つ、障害者に対する世間の無知を通した偏見を描くことで鑑賞者側の視点を再度改めさせる、価値観を変えてくれる映画なんです。

この点が、自分がこの映画を好きになった理由でもあり、最も推していきたい箇所でもあります。



言い方は悪いですが、映画というものは所詮は娯楽です。
映画は人生だ。といった大袈裟なことは言えません。

しかし、その娯楽の中で娯楽性を損ねることなく、監督の意図や作品の伝えたいことがしっかりと反映されていて、それでいて押し付けがましくなく観客の価値観を変えるかもしれない…僕が傑作だと思う映画にはそういったものが含まれている気がします。
いや、自分がそう感じ取ったといった方が正しいのか。

映画には映画の持つ力の可能性があるんです!



障害者を扱った映画

今作『無垢なる証人』では自閉スペクトラム症が論点に挙げられました。

自閉症スペクトラム障害(じへいしょうスペクトラムしょうがい、英語:Autism Spectrum Disorder, 略称:ASD)、あるいは自閉スペクトラム症とは、『精神障害の診断と統計マニュアル』第5版(DSM-5)における、神経発達症群に分類されるひとつの診断名で、コミュニケーションや言語に関する症状があり、常同行動を示すといった様々な状態を連続体(スペクトラム)として包含する診断名である。従来からの典型的な自閉症だけでなく、もっと軽い状態が含まれることになった。自閉スペクトラム(Autism spectrum)、自閉症連続体(じへいしょうれんぞくたい)、自閉症スペクトルなどともいう。
自閉症スペクトラム障害 - Wikipediaより引用


障害を持つ人は健常者より劣るのか?
決してそんなことはありません。

有名なものでサヴァン症候群というものがありますね。
サヴァン症候群とは、知的障害や発達障害等のある者の内、ごく特定分野に限って優れた能力を発揮する者の症状を指します。


韓国映画『それだけが、僕の世界』ではサヴァン症候群でピアノの腕前が天才的な弟が登場する。
落ちぶれた兄との家族再生を描いた映画です。

サヴァン症候群に限らず、障害者というだけで健常者よりも劣っているわけではありません。
健常者よりも優れたものを持っていることだってあるのです。

今作でも描かれましたが、無知による偏見で障害者は劣っているから証言に信憑性がないというのは間違い。
スノのように障害者と交流を深め、理解しようとすれば見えないものが見えてくる。

障害者も弁護士も同じ人間であり、人と人はそれぞれ違うものなのです。



障害者を題材とした映画も数多く作られていますが、それを演じる役者さんはどれも素晴らしいですよね。
もう一度言いますが、今作『無垢なる証人』で自閉症の少女を演じたキム・ヒャンギはもっと評価されるべきです。
身体的、知的問わず障害者を演じられる役者さんは障害者の方に対して真摯に向き合い、理解した上で演じておられます。
僕が好きな映画も幾つか挙げておきます。


『オアシス』

『しあわせの絵の具』

『シェイプ・オブ・ウォーター』

『岬の兄妹』

『シンプル・シモン』

無知による偏見は先入観や固定概念によるもの。
こちらから歩み寄ることで少なからず見方は変わります。



『無垢なる証人』ネタバレ

さて、ここからは『無垢なる証人』のネタバレ感想に入っていきます。
未鑑賞の方はご注意ください。










ジウの夢は弁護士になること。
その理由は「弁護士はいい人だから」
困ってる人を助けたいというクリーンなイメージを弁護士に抱く無垢な少女の夢が、スノの心を揺さぶる。
このシーンが好きすぎるんですよ。

そんなジウの純心を裏切る形で傷つけてしまったスノ。
弁護士としての責務、仕事を果たしただけなのに苛まれる罪悪感。
依頼人を守ることや真実は何か?というよりも人を信じることとはどういうことなのか?という実に人間的な感情に葛藤する。

そんな中でジウが弁護士になれないと悟り、それでも証人にはなれると、真実を語りたいと再び法廷に来た時は溢れる涙を止めることができなかった。



スノ自身も過去に弱い人を守るといった正義を夢見て弁護士の職に就いた。

そして、弁護士という職業ではなく自分のやりたいことが出来たことを喜ぶスノの父親の暖かな眼差し。
しかし、現実は甘くなくスノにとって何が本当に大切なものなのかに気付かされた瞬間なんです。



キャリアのために、上司の支持で受けた無償の国選弁護。
正義感とキャリアの狭間で揺れ、心が疲弊した彼にとってこの事件でのジウとの出会いが心に息を吹き込み、その後の人生を変えてくれたんですよね。


チャン・ヨンナムが演じるスノの片想いの女性。
彼女も弁護士として活動しており、スノの弁護士としての価値観の違いから一度は彼を否定します。

この弁護士としての価値観の違いは、まさに正義感とキャリアの差、真実と事実、勝ち負けとプライド、良心と報酬、そんな弁護士の利害関係を象徴していたように思う。
だからこそ、ジウとの交流によって弁護士の在り方、価値観を新たに人生を歩もうとするスノのプロポーズをすんなり受け入れたのだろう。


単なる法廷劇に留まらず、弁護士と証人、また検察やその家族など人となりやその背景を描き、それが全てラストに繋がっていく脚本の巧さ。




また、上記にも記載しました

今作『無垢なる証人』は(中略)障害者に対する世間の無知を通した偏見を描くことで鑑賞者側の視点を再度改めさせる、価値観を変えてくれる映画なんです。


「彼女には自分の世界がある」
「あなたが入ればいいのでは?」

人に歩み寄ること、自分の知らない世界に足を踏み入れることで開ける世界。



無垢なる証人であるジウとの交流がスノの弁護士の在り方や弁護士としての考え方、そして人生の価値観の変化へと派生していったように、映画『無垢なる証人』を鑑賞した観客が映画の在り方や見方、そして自身の価値観を見直すキッカケとなる。

この映画にはそれだけの力があると思います。
このメタ的な構造は、映画というものの価値そのもののようにも思えるし、自分にとって本当に大切な映画、大好きな映画になりました。


こんな映画、年に何本出会えますか?
この映画に関わった皆様、監督、製作陣、キャストに感謝したいです。

これだから韓国映画はやめられない!



終わりに

自分の韓国映画ベスト10入り、そして恐らく2020年の年間ベスト10入りの映画。
これを超える映画がこの先あるとしても、好きな映画であることはずっと変わらないです。


今回は考察というよりも感情的に語ってきましたが、読みにくい記事となってしまってすみませんでした。
この今の熱い気持ちを形として残しておきたかったので書かせていただきました。
少しでも興味をお持ちになられましたら、是非とも観ていただきたい映画です。


お読みいただいた方、ありがとうございました。




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