小羊の悲鳴は止まない

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思い出は心の貯蔵庫(『レミニセンス』ネタバレ考察)

目次




初めに

どうも、レクです。
今回はクリストファー・ノーラン監督の弟ジョナサン・ノーランが製作を手がけ、ジョナサンの妻リサ・ジョイが監督を務める『レミニセンス』について語っています。

この記事はネタバレを含みます、未鑑賞の方はご注意ください。




作品概要

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原題︰Reminiscence
製作年︰2021年
製作国︰アメリカ
配給︰ワーナー・ブラザース映画
上映時間︰116分
映倫区分︰PG12



解説

ヒュー・ジャックマンが記憶に潜入するエージェントに扮したSFサスペンス大作。「インターステラー」「ダークナイト」などクリストファー・ノーラン作品で脚本を担当してきた、クリストファー・ノーランの弟ジョナサン・ノーランが製作を手がけ、ジョナサンの妻でテレビシリーズ「ウエストワールド」のクリエイターとして知られるリサ・ジョイがメガホンをとった。多くの都市が水没して水に覆われた世界。記憶に潜入し、その記憶を時空間映像として再現する「記憶潜入(レミニセンス)エージェント」のニックに、検察からある仕事が舞い込む。それは、瀕死の状態で発見された新興勢力のギャング組織の男の記憶に潜入し、組織の正体と目的をつかむというものだった。男の記憶から映し出された、事件の鍵を握るメイという名の女性を追うことになったニックは、次々とレミニセンスを繰り返していく。しかし、膨大な記憶と映像に翻弄され、やがて予測もしなかった陰謀に巻き込まれていく。「グレイテスト・ショーマン」でもジャックマンと共演したレベッカ・ファーガソン、「ウエストワールド」のタンディ・ニュートンらが脇を固める。
レミニセンス : 作品情報 - 映画.comより引用





短評

まずはTwitterに上げた感想から。



これは個人的意見として聞き流してもらいたいんですが
クリストファー・ノーランって世界観の構築は本当に凄いと思っているんですが、ドラマに関してはつまんない作品もあります。
(ちなみに自分はノーラン好き)

個人的に、本作『レミニセンス』はドラマ面だけを見れば『ダンケルク』や『テネット』より断然面白いと思っています。

Twitterの感想に書いた通り、SF設定が後に重要な要素となる恋愛映画なんですよね。

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ヒュー・ジャックマン演じる主人公ニックがある事をきっかけに出会ったレベッカ・ファーガソン演じるメイという女性を追っていく。

SFミステリーを期待すると物足りないと感じてしまうかもしれません。
あくまでもミステリータッチなラブストーリーくらいの気持ちで観るとこの映画から受ける印象も変わるのではないでしょうか。


考察

男性が女性を追っていくミステリーはアルフレッド・ヒッチコック監督作『めまい』などがありますが、この追っていく中で少しずつ情報が開示され、謎が明らかになっていく面白さというのはちゃんとあります。

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『めまい』(C)1958 Alfred J. Hitchcock Productions, Inc & Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved.
Restored Version (C)1996 Leland H. Faust, Patricia Hitchcock O'Connell & Kathleen O'Connell Fiala, Trustees under the Alfred J. Hitchcock Trust. All Rights Reserved.



その情報開示というのが、主に本作『レミニセンス』の目玉設定でもある"記憶を覗き見る"こと。
つまり、他者の記憶に潜入はできないんですよ。
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これは嘘です(笑)

トニー・スコット監督作『デジャヴ』やダンカン・ジョーンズ監督作『ミッション:8ミニッツ』のように、過去の記録としてあくまでも"俯瞰的に覗き見る"ことしかできない。

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『デジャヴ』(C)2006 TOUCHSTONE PICTURES and JERRY BRUCKHEIMER INC. ALL RIGHTS RESERVED.

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『ミッション:8ミニッツ』(C)2011 Summit Entertainment, LLC. All rights reserved.

ただ、挙げさせていただいた2作と比較しても、どうしても設定上の甘さは見えてきます。
そこまで完成度は高くありません。


例えば、舞台設定。
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舞台は海面の上昇により海に沈みかけている世界。
地主が土地を失った人々を搾取する格差社会。
そんな退廃的な世界で主人公のニックは他者の記憶を映像化して覗き込む装置をビジネスとして使用している。

現実世界が閉塞的だからこそ、過去に縋る人々という心情にも説得力が生まれます。


その一方で、このような高度な技術が存在しているなら、半水没した世界を救う何かしらの手立てはあるのでは?
と思ってしまうんですよね。

また、他者の記憶を覗き込むことができるなら、もっと犯罪にも利用されるはず。
今回ニックが巻き込まれた事件も、近づくために偽装された記憶を見せて、金持ちの不倫相手の記憶を保存したメモリーカードのようなものを盗み出すだけという。





しかし、しかしですよ。
挙げた2作は事件を解決するために記憶を覗き見る謂わば雇われの身、与えられた任務なんですが、本作『レミニセンス』のニックはヒッチコックの『めまい』同様にほぼほぼ私情で動きます。

こういう設定はとても好きなんですよね。

過去に起きた出来事は変えられないという当たり前の事実を元に手探りに事件を解決していく。
主人公と同時に我々観客にも情報開示がされるわけで、主人公視点に入り込みやすいんです。

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ヒュー・ジャックマンを起用したリサ・ジョイ監督の意図もしっかり反映されていますね。



また、記憶を覗いてレベッカ・ファーガソンが歌うシーンを見たことで魅了されるヒュー・ジャックマンはどこか『グレイテスト・ショーマン』のワンシーンのようでもありました。

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『グレイテスト・ショーマン』(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation



改めて言います。
クリストファー・ノーラン作品に携わってきたジョナサン・ノーランの名前ばかりが先行していますが
本作『レミニセンス』はクリストファー・ノーランのようなSF設定を全面に押し出した作品ではなく、SF設定をギミックとして使った恋愛映画なんです。

クリストファー・ノーラン監督作ではなく、リサ・ジョイ監督作なんです。



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最後になりますが
そんな『レミニセンス』で語られるある価値観に対して語っておかなければなりません。
ある価値観が、自分の価値観と近いものと相反するものを突きつけられて良い意味で僕の価値観は揺さぶられました。



まずはハッピーエンドの価値観について。

劇中でもニックは
「ハッピーエンドはないさ、必ず悲しみが残るのだから」
と語っています。


自分も以前から、ハッピーエンドとは人生という長い期間の中で幸せな時間の一部を切り取ったものでしかないと考えていました。



物語は終わりよければすべて良しなところがありますが、人生はそうはいきません。
悲しい時もあれば幸せな時もある。
悲しみがあるから幸せを感じるもの

だと。

幸せな時間ばかりが良い物語ではないというのも正直なところ。
この"ハッピーエンド"についての価値観はほぼほぼ自分と同じものを感じました。




一方で、過去に関しての価値観は大きく異なりました。

過去について、自分はこう考えています。
過去を忘れるということは自分が楽になることでもある。

人は不快な記憶を忘れることによって防衛する。
ジークムント・フロイトの名言


また、過去に囚われたままでは歩み進めることは出来ず、過去を受け入れることで前進することができるとも考えています。

過去に縋ることはマイナスなイメージが多く持たれると思います。
しかし、この物語は悲劇を如何にハッピーエンドに変えることができるか。
ということなんだと思いました。

上記のニックの台詞に対して、メイはこう語っています。
「それなら、幸せな時間で終わらせればいいの」
と。


死んだ妻を取り戻すために冥界へ行ったオルフェウスが振り返ってはならない約束を破り、妻を失ってしまう悲劇が描かれる『オルフェウス』の神話も劇中で挙げられました。

『オルフェウス』の神話を基に作られた現存する最古のオペラ『エウリディーチェ』は神話の悲劇の結末は大きく異なり、夫が振り返らずに妻を取り戻すハッピーエンドになっています。


"振り返らないこと"で掴むハッピーエンドではなく、"振り返ること"で悲劇にもハッピーエンドにもなる。
それが『レミニセンス』でニックが自ら選んだ結末。

他者から見れば悲劇だとしても、本人にとって幸せならそれでいいじゃない。

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死人は蘇らない。
でも記憶の中に大切な人は在り続ける。
そんな愛の可視化なんですよね。

こんな人生の終わり方もある。
それを選ぶことができるほど、幸せな時間を経験したニックが羨ましいとさえ思える。
自分との価値観の相違は見られるものの、自分が納得させられる物語となっていました。


終わりに

ということで、あまり評価は高くありませんが
個人的にはドラマ方面でリサ・ジョイ監督を評価しています。
またジョナサン・ノーランとリサ・ジョイの夫婦で映画を撮ってほしいですね。

ありがとうございました。



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